配偶者が専業主婦である前提で、相続人名義の銀行口座が相続対象となるかどうかの問題を説明いたします。
相続人名義の普通預金口座であっても、その預金の原資の出捐者、その預金口座の管理・運用状況、その預貯金の原資の贈与の有無等を総合的に判断して、相続人の名義の銀行口座であっても、被相続人に帰属する預金として判定します。
ところで、名義預金への入金の原資が被相続人からの生活資金の入金で、その預金の管理の出し入れは、妻が行っていたとしても、資金が不足したときの意思決定は夫がもっているのが普通です。また、妻の才覚でためた生活費のヘソクリ(へそくり)は夫から贈与されたものといえるのかが論点となります。
贈与は、当事者の一方がある財産を無償で相手方に与える意思を表示し、相手方が受諾することによって、その効力を生ずる(民549)契約です。贈与契約は、贈与者と受贈者が贈与の合意があり、贈与財産の贈与の履行があることが必要です。贈与者は、贈与の目的である物又は権利を、贈与の目的として特定した時の状態で引き渡し、又は移転することを約したものと推定する(民551)とされています。すなわち、生活費のヘソクリ(へそくり)の口座の余剰額がその月のヘソクリ(へそくり)額なのか贈与時の通帳残高なのかを贈与者が特定して、そのお金を引き渡すことが贈与には求められています。妻が生活費を倹約してヘソクリ(へそくり)をして貯めたとしても、贈与契約の構成要件としての贈与者の贈与の意思が不明確なことと、贈与の目的として特定した時の状態でヘソクリ(へそくり)を引き渡したかどうかが不明確です。そのため、贈与が成立していたとはいえないのではないかと考えられます。
また、生活資金の管理については、通常、民法でいう寄託と考えられております。寄託とは、当事者の一方がある物を保管することを相手方に委託し、相手方がこれを受諾することによって、その効力を生ずる(民657)とされ、無報酬の受寄者は、自己の財産に対するのと同一の注意をもって、寄託物を保管する義務を負う(民659)とされています。生活費のヘソクリ(へそくり)は、無駄な消費支出をさけ合理的、経済的に生活費を運用管理した結果、生活費の余剰額がヘソクリとなったといえますが、それは自己の財産に対するものと同一の注意義務の結果ともいえなくもありません。ヘソクリ(へそくり)を贈与財産とするためには、夫から妻への金銭に引き渡しが必要です。
総合的に考えますと、相続人の名義預金を被相続人の相続財産として相続税申告をすることと、遺産分割協議の対象とすることが妥当ではないかと考えられます。
なお、贈与を主張するためには、夫の口座から、妻の口座へのお金のいどうがあり、贈与の意思の確認できる書面の交付と、贈与税申告が必要であれば行うことがトラブルを避ける上で必要です。