遺言書の書き方としては、「長男に遺産の2分の1を遺贈する」とする書き方と「長男に自宅の土地建物を遺贈する。」とする書き方があります。前者は、包括遺贈(民964)による書き方といい、後者は特定遺贈による書き方といいます。
包括遺贈は、遺産の全部又は一定の割合(2分の1とか50%とかの割合で)で受遺者に遺贈するものです。包括遺贈には遺産として債務も含まれます。そのため、遺産としての純財産額がプラスの場合もあるしマイナスの場合もあります。純財産がマイナスの場合には、放棄を選択することもできます。包括遺贈の受遺者を包括受遺者といい、包括受遺者は相続人と同様の同一の権利と義務を有します(民990)。すなわち、包括受遺者や相続人は、受遺分、相続分の割合に応じて、相続開始と同時に被相続人の遺産を共有し、遺産分割をすることになります(民906)。また、遺言者の相続開始以前に包括受遺者が死亡している場合には、遺言で、包括受遺者が死亡した場合には、その受遺分を他の者に遺贈する旨の遺言がない場合には、包括遺贈の効力は生じないことになります。すなわち、遺言がない場合で、分割協議による相続をするときのように、死亡した相続人の子が相続する代襲相続の制度はありません。
一方、「長男に自宅の土地建物を遺贈する」とする書き方は、特定遺贈(民964)といいますが、特定遺贈は、受遺者へ特定の財産的利益を遺贈させることを目的としたものです。特定遺贈の場合は包括遺贈と異なり、遺言で特定された財産は分割協議の対象とはなりません。そのため、遺言の効力発生と同時に、土地建物の所有権は長男に移転します。もし、その不動産に賃貸収入がある場合には、相続開始と同時に賃貸収入の受益権も帰属します。なお、遺言で、特定遺贈とされていない財産は、相続人間で分割協議をすることとなります。
包括遺贈による遺言は、被相続人の特定の財産の帰属について相続開始後の相続人間の話し合(遺産分割協議)に委ねられますが、特定遺贈により特定財産の遺贈は、相続の開始と同時に帰属が確定します。受遺者にとっては、前者は、相続開始後に自分の意思で特定の財産の帰属を決定できるメッリットがありますが、後者は、財産を選択する自由がないとしても、相続と同時に自動的に財産の帰属が決まるため、受遺者間での話し合いをしなくても良いメリットがあります。遺言者は、包括遺贈のメリット、特定遺贈のメリットを考慮しながら遺言書を作成する必要があります。