遺言書に被相続人の遺産について、遺贈される文言があるが、他の相続人にも遺産が相続してもらえるようしたいが、何か方策があるかとの相談が寄せられます。そこで、他の相続人へ遺産を相続する方法を解説いたします。
その方法としては、遺贈の放棄があります。遺言には、包括遺贈と特定遺贈とがありますので、それぞれに分けて遺贈の放棄について説明します。
民法においては、遺言者が死亡した後、受遺者は、いつでも遺贈の放棄をすることができることになっております。その遺贈の放棄は、遺言者の死亡の時まで、遡ってその効力を生ずるものとされています(民986)。すなわち、遺贈の放棄をすれば、相続開始の時にさかのぼり、被相続人が遺言した遺産について、受遺者が遺贈の放棄をした遺産について遺言がないものとされます。
そこで、遺言が包括遺贈の場合には、遺贈される遺産には、積極財産だけでなく遺言者の債務を含みます。そのためえ、包括受遺者は相続人と同一の権利義務を有するものとされています(民990)。包括受遺者は遺言により債務の負担も含みますので、遺言の放棄の手続きについては相続放棄の手続きと同じ手続きを適用することになります。包括受遺者は、自己のために相続の開始があったことを知ったときから3ヶ月以内に、限定承認又は遺贈の放棄を家庭裁判所に申し立てなければなりません(民915,938)。
包括受遺者が、
①遺贈対象の財産を一部ないし全部を処分し、
➁3ヶ月以内に限定承認又は包括遺贈の放棄をしなかったとき、
③限定承認又は相続の放棄をした後でも、相続財産の隠蔽、私的な消費、悪意での財産目録不記載がある場合には、包括受遺者は単純承認したものとみなされます(民921)。
包括遺贈に包括受遺者の放棄があった場合のその放棄対象財産が相続人の分割協議の対象とするのか他の包括受遺者の割合に帰属するのかは、遺言の趣旨等により解釈が異なりますので、弁護士等にご相談ください。
特定遺贈の場合には、受遺者は財産的利益を受けるだけですので、遺言者の相続開始後いつでもその放棄をすることができます。そのため、包括遺贈とは異なり、その期限や放棄の方法が定められておりません。そこで、遺贈義務者その他の利害関係人は、受遺者に対して、相当な期間を定めて、遺贈の承認または遺贈の放棄をすべき旨の催告をすることができます。その催告期間内に受遺者が、遺贈の放棄の意思を明確にしなかったときは、遺贈の承認したものとみなされます(民987)。
特定遺贈の放棄がなされますと、遺言で遺贈されていない遺産を含め受遺者の放棄した財産と合わせ、相続人間で遺産分割協議をすることとなります。