相続税は、被相続人の相続時点の遺産を課税対象としていますので、その遺産は、相続開始時点に存在していることを前提としています。
皆様にとってなじみのある毎年恒例の確定申告における所得税の課税標準は、所得で、収入金額から必要経費を控除した所得金額が課税標準です。法人税であれば、益金から損金を控除した所得が課税標準です。この所得の概念は、財や労務等を使用した経済活動等を通して派生した益金や損金などの産出された貨幣的量的概念であり、財産と異なり、所得はその存在を貨幣的な概念として認識できるとしても、具体的なものとして指摘することはできません。所得は、事業年度等で区切られた時間のなかで、貨幣価値で測定された経済的価値の量である益金と損金との差額概念であるため、時には、結果としての所得の推計ということもあります。つまり、推計とは、申告されていない財産の存在を前提とすると、益金、すなわち、所得の存在を前提としないと、未申告財産の形成ないし存在を説明できないときに、その所得の存在を推定します。例えば、申告所得が低いのに、高額な生活用財産の存在があるとか子供の高額な授業料の支払からみて、その申告所得から説明できない場合などに、所得の推計は起こりえますが、その財産等の存在がない場合には、推計課税はできません。
相続税は、被相続人の遺産を課税標準とするため、財産の存在の推計という考え方は存在しません。例えば、被相続人が死亡前1年前に、2千万円を預金から引き出し、相続人に贈与された事実もなく、その金銭が金庫にもなく、どこにあるのか不明の場合で、被相続人がそれを使用したのかどうかわからない場合があります。その場合、相続人家族が隠匿したのではないかと疑われます。しかし、その事実がなく、そのお金の存在がわからなければ、どこかに、隠されている可能性があるからといって、その存在を推定して、すなわち、そのお金の存在がないのに、あるものとして、相続税は課税されることはありません。
相続税税務調査は、相続税申告書で申告された遺産について、税務署が申されていない財産の存在を疑い、あるいは、確認すべき状況にあるときに、税務調査が行われます。納税者である相続人は、その調査されている理由については、多くの場合、不明であるため、不安と心配になりますが、財産の存在を前提にした相続税税務調査であることを理解して相続税調査を受けると、精神的な不安感が軽減されましょう。つまり、相続財産がこれだけあるべきだとの推定や推計だけでは、相続税の課税処分がされることはありません。相続税調査のすべてに通ずる課税の限界は、現実の財産の存在を前提として、その財産が被相続人の相続開始時点において、被相続人に帰属していたもの、所有していたものとして、明らかになった場合のみ課税されるものです。